障害をこえて誰もが心通じあえる社会は、つくれる。

[第1回みみここカフェ イベントレポート]

Mimikoko cafe group photo


「みみ」と「こころ」、「聴こえる」と「聴こえない」をつなぐ「みみここカフェ」。2020年10月11日(日)、一般社団法人4Heartsとして初のイベントを開催しました。

開催趣旨はこちら

直前まで懸念されていた台風の影響もなく、当日は清々しい秋晴れに。汗ばむほどの陽気のなか、会場には、開始時間前から続々と参加者のみなさんが駆けつけてくださいました。

イベント3日前には満員御礼となった今回のイベント。熱気あふれる現場の空気そのままに、レポート記事をお届けします。

11人11様のコミュニケーションが紡ぐ安心の場

Photo at the start of Mimikoko Cafe
会場は、茅ヶ崎駅北口にあるコワーキングスペース「チガラボ」。
聴覚障害のある方4名、健聴者7名、合計11名の方が一同に介しました。

この日会場に集まったのは、11名の参加者のみなさん。司会進行の市川歩(4Heartsサポーター)の合図で円座になって顔を合わせ、まずはそれぞれが持つ、”自分の言葉”で自己紹介を交わしました。

「手話を勉強しはじめたばかりで、体験したことない対話なのでドキドキしています」
「同じ聴覚障害者として、那須さんを応援したくて…」
「年齢を重ねて聴覚障害になったので、いい出会いがあるといいな、と思って来ました」

手話で、口頭で、両方で。それぞれの想いのこもった表現を、真剣な表情で正確に受け取ろうとする参加者のみなさん。受け取り方も、手話通訳の手話や言葉で理解する方、口の動きを読み取る方、音声認識ソフトを通した文字で認識する方…。11人11様の方法で、ゆっくりとコミュニケーションが交わされました。

自分を伝える、相手を受け取る。その行為をひとつひとつ丁寧に重ねることで、見えない安心が場に紡がれていきました。

Mimikoko Cafe Sign Language Interpreter Photo
当日は、2名の手話通訳が参加者間のコミュニケーションをつなぎました。

 

モヤモヤのままでいい。言葉を交わすことから始めよう。

4Hearts代表の那須かおりによる挨拶と団体紹介のあとは、4Heartsの加藤が進行役となり、さっそく本日のメインコンテンツである「哲学対話」の時間に。聴こえる人も聴こえない人も、まずは自分の思いや困りごとを語り、共有することから始めようと企画しました。

Mimikoko Cafe Photograph of the start of dialogue

「哲学というと難しく感じるかもしれませんが、なにか答えを出すものではないんです。もやもやしたままでも、この対話を通して自分で考えるきっかけにしてもらえればいい。心の中のことをそのまま話してもらえれば、良い場のなるのかな、と思います」

加藤からのメッセージをそのまま受け取ってくださった参加者の方からさっそく手が上がり、対話がスタートしました。

最初にマイクを受け取ってくださったのは、年齢を重ねて聴覚障害になったというAさん。

Mimikoko Cafe Photo that talks about experiences

「聴こえなくなって20年経ちますが、最初の10年はごまかしていました。まだ高齢ではないときに聞こえなくなったことがうしろめたくて、人に言えずに過ごしてきました。友達といても話していることが聴こえなくて、眠くなっちゃうこともあるんですよね(笑)」

どこまでも明るくご自身の経験を語るAさんの言葉に、会場の空気は一気にほぐれていきました。Aさんはこの日、音声認識ソフトを介して会場のみなさんの言葉を理解していました。

「これは本当に便利。これがあれば私も対話できます!」

と感動を口にするAさんの様子に、会場のみなさんも興味津々。音声認識端末の画面を覗き込む方もいらっしゃいました。

そんな様子を受けて手を挙げたBさんは、テクノロジーの可能性に言及しました。

Mimikoko Cafe photo that speaks voice recognition
身体障害によりパソコンの入力ができず、かつては音声入力ソフトを使っていたというBさん。
でも誤変換が多く、使わなくなっていたのだとか。

「この音声認識の精度はすごいなぁ、と感心しました。僕は身体が動かせないから手話もできないのですが、こういう技術が発展することで、聴覚障害の方とお話できるのなら素晴らしいなぁ、と。もっと普及してほしいと思いました」

車椅子で来場してくださったBさんの違う障害の立場からの発言に、ハッとした様子の会場のみなさん。自分の心を安心して伝えるためには、まずは相手の言っていることが「わかる」ことが必要です。テクノロジーの発展によってコミュニケーションのハードルを下げられる可能性が見えた瞬間でした。

※この日使用した音声認識アプリは、こちらの記事でご紹介している「Speech to Text Webcam Overlay」というものです。

 

健聴者と聴覚障害者、混じり合いの課題と可能性

次に挙手されたのは、聴覚障害を持つCさん。職場で感じているジレンマを打ち明けてくださいました。

Mimikoko Cafe Photo talking about evaluation at the company

「私がおかしいな、と思うのは、会社では聴覚障害者も一般の方も評価の方法が同じことです。同じようにノルマを課されても難しいのに、聴覚障害や内部障害は見た目ではわからないので、一般の人並みにできると思われてしまいます。オリンピックとパラリンピックのように評価を分けてほしいです」

同じく聴覚障害者のDさんも続けます。

「障害者雇用で10年勤めていますが、聴こえないから研修も受けられなかった。入社6年でやっと通訳をつけてもらえましたが、当時は社会から取り残された感覚でした。しゃべれなくても社会参加できるようになるといいと思います」

一方で同じく聴こえないEさんは、聴こえる人との出会いのエピソードを語ってくださいました

「外出先で、手話サークルの大学生2人に助けてもらったことがありました。”差別がなくなってほしい”って言ってくれて、本当にうれしかった。みんなが手話を勉強してくれるとうれしいです」

MimiKoko Cafe Photo of everyone talking in sign language

Eさんの笑顔の発言を受け、4Heartsの加藤は健聴者の立場からの実感も伝えました。

「私の同僚にろう者の方がいますが、身近にいることで、手話ができなくても、身振り手振りや筆談でなんとかコミュニケーションしようとするようになりました。それはすごく良かったな、と思います」

車椅子のBさんからは、大阪府豊中市で実践されているインクルーシブ教育を見学した体験がシェアされました。障害のある子もない子も、当たり前のように同じ教室で学ぶあり方に感銘を受けたそう。

「日々トラブルはあっても、子どもたちのなかで”違う”ということが当たり前になっていて、涙が出てきました。私のような身体障害者でも聴覚障害の方との間に壁があったように感じますが、障害のある・なしや種類も越えて対話することが大事だと感じました」

Mimikoko Cafe photo of people with and without disabilities talking about mixing

今の日本では、教育現場でも社会生活でも、障害のある人とない人、違う障害の方同士が混じり合う機会が少なく、そのために心理的な壁ができてしまうという現状があります。

それぞれの立場のありのままの言葉で交わされた対話は、社会の課題を浮き彫りにするとともに、混じり合いの未来をつくる希望を指し示してくれました。

茅ヶ崎を手話特区に!
まずは自分の地域から、通じあえる場づくりを。

誰もが意見を尊重される約1時間の対話のなかでは、災害時の困り事や障害を越えた友人関係のことなどさまざまな話題が飛び交い、尽きることはありませんでした。熱を帯びた会場で最後に交わされたのは、聴こえる人と聴こえない人をつなぐ「手話」というコミュニケーション手法について。

「手話って難しいんですよね。私も勉強しようとしたんですが、なんだか今は手話が特殊なものになっている気がして。私は書道教室で教えていますが、聴こえなくて困っていると子どもたちがボディランゲージで一生懸命伝えてくれます。ボディランゲージみたいに、もっと手話が日常化していくといいな、と思います」

とAさんが口火を切ると、4Heartsの那須は、思い描いている未来を語りました。

「手話は日本語とまったく違うので、難しいんですよね。それならば、聴こえる人がむしろ使いたくなるような手話を伝えられたら、とも考えています。また、私は茅ヶ崎市を”手話特区”にしたいと思っていて。お店の接客の方に最低限の手話を覚えてもらって、そのお店にステッカーを貼っていくんです。そんなモデルを茅ヶ崎でつくって、全国へ広げていきたいです」

”手話特区”というワクワクする響きに、会場からは、とても”大きな”拍手が沸き起こりました。

”大きな”と表現したのは、それが「音」ではなく、この場にいる誰もが理解できる「動き」だったから。対話を交わすなかで、何度か手話の拍手が沸き起こっていて、その動きを覚えた聴こえる方々も、最後には手話で拍手を贈ったのです。

円座のすぐ近くで場を感じていた私には、それが波紋のように会場を飛び出し、まちへと拡がっていくイメージが見えたような気がしました。

いつか手話特区・茅ヶ崎から、全国へムーブメントとして広がる日がやってくる。そして誰もが心通じあえる社会は、つくれる。そんな確信とともに、哲学対話は終わりの時を迎えました。

Mimikoko Cafe Group photo after dialogue

対話後の懇親会も、熱量そのままに大いに盛り上がり、会場には、終了時間を超えても立ち話を続ける参加者の方々の姿がありました。「どうしたら手話特区にできるだろう?」と、その具体的な施策についてアイデアを交わす方々の隣では、哲学対話の続きのようにお互いの思いをシェアする輪も。

それぞれに交わりあい、心と心がつながりあう多様性の保障された場が、確かにここには存在していたように思います。

Photo of a chat after the end of MimiKoko Cafe

 

MimiKoko Cafe Photo when the conversation continues even after the end

4Hearts初のイベント「みみここカフェ」は、こうして幕を閉じました。至らない点も多々あったかと思いますが、参加してくださったみなさまには、心から御礼申し上げます。みなさま一人ひとりからいただいた言葉を胸に、4Heartsは次の一歩を踏み出して参ります。

あらゆる障害をこえて、誰もが心通じあえる社会を目指して。

[撮影:市川靖洋、文:池田美砂子(ともに4Heartsサポーター)]