『要約筆記について』

『要約筆記ってなに?』

聴覚障害者のために、話された内容をその場で文字にして伝える方法を要約筆記と言います。聴覚障害者の中でも主に、中途失聴、難聴の方々に対する支援方法です。音声情報を日本語の文字で表し、聞こえない、聞こえにくい方々がその場に参加できるように支援する、これが要約筆記の目的です。この点で要約筆記も手話通訳と同じく、聴覚障害者の情報保障、社会参加を保障するための権利擁護の活動と言えます。
要約筆記は話す速さと文字化できるスピードの差から、すべての言葉を文字化するのではなく、話の要旨がきちんと伝わるように要約しながら文字にするので「要約筆記」と言われています。

要約筆記の種類は手書きとパソコン入力による方法があります。神奈川県では2003年頃からパソコン要約筆記が始まりました。パソコンを使用すると文字化できる文字数も多くなり、かなり詳細な部分まで表出できるようになりました。

また、その会場にいる方々全員に対して、スクリーンで文字を出す全体投影という方法と、聴覚障害者個人に対して文字を出す方法のノートテイクがあります。ノートテイクの場合には、個人の要望に合わせて文字化することも可能です。文字の大きさや話のまとめ方など、利用者の使いやすい方法を相談できます。その場の状況により限界もありますが、病院や野外での活動などにも工夫しながら対応しています。

筆談と要約筆記の違いをよく聞かれます。文字で伝えることは同じですが、筆談は話したい内容を自分で文字にして伝えます。一対一の会話などでは、お相手が筆談をしてくれると言いたいことがわかります。しかし、要点や結論だけを箇条書きで書かれると話の流れ、展開がわかりにくく、読みにくい書き方ではうまく伝わらないことが多いと聞いています。

また、多数の方々が発言する会議のような場面や、発言者が一人であっても長時間にわたって話される場合は筆談では難しいです。要約筆記はどのような場面でも話し手と聴覚障害者の間に立って、コミュニケーションが取れるように文字で支援する通訳活動です。

手話通訳に比べて、まだまだ認知度の低い要約筆記ですが、手話では情報が取れない聴覚障害者も多数いらっしゃいます。その方々にとって文字で情報を伝える要約筆記は、欠かせない方法です。補聴器で残存聴力を生かしながら不足を要約筆記で補うという方、高齢で聞こえが悪くなり補聴器だけでは十分な情報を取れないという方や、人工内耳を装着されていても場面によっては要約筆記を利用される方も多数いらっしゃいます。

『要約筆記のはじまり』

手話を使わない中途失聴、難聴者は、会議のときには自分で発言内容を紙に書いて回したり、黒板に書いたりして、コミュニケーションをとっていました。1960年代になると、学校などで使われるようになったOHP(オーバーヘッドプロジェクター)を利用して、発言を聞き取った人が文字に書いてスクリーンに映し出す方法が試されるようになりました。
神奈川では、手話通訳者が手話だけでは話が伝わりにくい聴覚障害者の存在に気づき、文字によるコミュニケーションの重要性に関心を持った人達が、話の要点をまとめて書くことを始めたと聞いています。

1973年(昭和48年)第1回難聴者組織推進単位地区研究協議会(京都市大和屋旅館)が開かれました。そこでのOHPによる要約筆記がきっかけで、全国に広がっていきました。
ですが、この頃はまだ要約筆記の方法も決められていませんでした。

1975年(昭和45年)、手話奉仕員養成講座が始まりました。
1981年(昭和56年)、当時の厚生省は、身体障害者社会参加促進事業のメニュー事業として「要約筆記奉仕員養成事業」を加えました。手話通訳から11年遅れてのことです。 これによって、要約筆記奉仕員養成講座が全国各地で開かれるようになり、要約筆記サークル も相次で結成されました。現在は「要約筆記奉仕員」から「要約筆記者」と名称も変わり、活動を広げています。

『音声認識ソフトと遠隔情報保障』

近年、音声認識装置の技術が進みました。スマホ用音声認識アプリも種々開発され、性能も以前と比べて格段に良くなっています。聴覚障害者用に開発された「UDトーク」(https://udtalk.jp/)や「こえとら」(https://www.koetra.jp/)の他にも様々出ています。会話の場面で相手の音声を文字に換えて使うという個人的な使い方の他にも、大学の授業や企業の会議などでも広く使用されているようです。年配の方はともかく、若い世代の方は最新の技術が苦も無く手に入る時代になりました。ご自分の使い勝手の良いものを試してみてください。

パソコン要約筆記者が遠隔地で入力した文字を会場に送る、遠隔情報保障も始まっていましたが、令和2年3月以降コロナウイルス禍の中では、集まって会議が難しい場合のオンライン会議での情報保障も必要になり、取り組みが進みました。今後も聴覚障害者が活動するあらゆる場面に対応できるような技術や工夫が望まれます。

『要約筆記を利用するには』

聴覚障害者(身体障害者手帳をお持ちの方)が、要約筆記を依頼したい場合は、お住まいの市区町村の障害福祉課に申請します。費用は市区町村が負担します。病院の受診やお子さんの学校保護者会に出席する、冠婚葬祭などにも要約筆記者の派遣を申請することができます。
市区町村により、要約筆記者を派遣してもらえる範囲に多少の差があります。
申請の際に担当者にご確認ください。
地域の要約筆記サークルには資格をもった要約筆記者が在籍しているところもあります。要約筆記サークルや社会福祉協議会に相談してみるのもいいですね。また、地域の当事者団体等に繋がることで様々な情報が得られることもあります。

『要約筆記者になるには』

要約筆記者の養成は、都道府県、政令市、中核都市で行われています。厚労省から出されている養成カリキュラムは実技と講義を合わせて84時間以上(必修講義44時間、必修実技30時間、選択必修科目10時間以上)となっています。受講後に登録試験を受け、合格者が要約筆記者として登録・活動ができます。
各都道府県、市区町村により違いがありますのでお住まいの地区の情報提供施設や福祉事務所にご確認ください。
全国聴覚障害者情報提供施設一覧 (http://www.zencho.or.jp/link)

ちなみに、神奈川県域(神奈川県内の政令市・中核市を除く市町村)の方々は神奈川県聴覚障害者福祉センター(http://www.kanagawa-wad.jp/)の要約筆記者の養成講習会を受講できます。受講要件等の詳細は県センターまでお問い合わせください。なお、茅ヶ崎市では要約筆記の紹介・体験を目的とした講習会があります。こちらは、茅ヶ崎市の障害福祉課までお尋ねください。

『学校でのノートテイク』

公立の小・中学に通っているお子さんがノートテイク支援を必要とする場合は、まず担任に相談すると、学校長を通して市町村の教育委員会で相談・対応してもらえることが多いようです。県立高校も同様に相談できます。行政が行っている意思疎通支援事業としての要約筆記(ノートテイク)派遣は基本的には使えません。(親御さんが聴覚障害をお持ちの方は、お子さんの授業参観や懇談会等の学校行事に派遣を使うことは可能です)

ノートテイクを付けるシステムは、人の調整(コーディネーター)が主な仕事です。授業は毎日のことです。利用者とノートテイカー双方のキャンセルや学校行事の変更などもあって、思ったよりも大変な作業です。科目ごとの先生の協力や事前資料の用意や調整も必要となります。学校や行政と相談しながら支援のシステム作りを進めてください。

高校以上の高等教育機関の場合はどうでしょうか。かつては聴覚障害学生が自分でノートテイカーを探して、学校側に入室の許可をお願いするという時代もありました。大学に入学しても聴覚障害学生の物理的・心理的な負担はとても大きなものでした。地域の要約筆記サークルに依頼が来て、ボランティアでノートテイクに付いたという経験のある人も少なくありません。

しかし、この10年ほどで、バリアフリーや障害者の人権擁護という概念も大きく広がり、障害者差別解消法も施行されました。これら時代の要請もあって大学側の意識も大きく変わり、現在は多くの大学であらゆる障害を持つ学生を支援するために、障害学生支援室や支援センターが立ち上がっています。

ノートテイクを必要とする学生のために、ノートテイカーを学内で養成して学生ボランティアとして登録・活動するシステムを立ち上げている学校も多いようです。別に、外部から資格を持った要約筆記者を派遣して対応しているところもあります。利用には、時間数などの条件はありますが、支援室・センターでは教授陣との連携もあり、何より専門知識のある職員と相談できるのは心強い限りです。

残念ながら、まだ支援室等のない大学や、支援室があっても対応が難しい場合には、専門で活動している団体「日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク」(PEPNet-Japan http://www.pepnet-j.org/web/)、県や政令市にある「聴覚障害者情報提供施設」等で情報を集める、あるいは地域の要約筆記サークル等でご相談することも有効です。支援制度などの様々な情報を持っていますし、解決の糸口が見つかるかもしれません。
前述のとおり、ノートテイク利用のシステムを立ち上げて軌道に乗せることは簡単ではありません。ぜひ、協力者を見つけて学校側と話し合って進めてください。

文/茅ヶ崎市要約筆記者連絡会
・筆記通訳サークル
「虹」

参考にさせていただいた団体:

参考にさせていただいた書籍:

  • 『厚生労働省要約筆記者養成講習会カリキュラム準拠指導者用テキスト』
  • 『要約筆記利用ハンドブック』((一社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会発行) 
  • 『聴覚障害学生サポートガイドブック』(日本医療企画発行) 
  • 『大学ノートテイク支援ハンドブック』(株式会社人間社発行)