声を出せと言われても…~聴者とろう者のプレー中のコミュニケーションの違い~

デフフットサル女子日本代表インタビュー(2)

photo of Keeping the ball in futsal

 デフフットサル女子日本代表の主将・岩渕亜依さん、川畑菜奈さんへのインタビュー第2弾。前回はお二人の自己紹介と2019年スイスワールドカップを通して感じたことをお話頂きました。今回はそこからさらに、アスリートとして具体的にどのような考えを持っていらっしゃるのか、聴者に交じってプレーする際に気づいたことなどをお話していただきました。
(撮影:2020年2月実施)

デフフットサル女子日本代表インタビュー(1)↗
デフフットサル女子日本代表インタビュー(3)↗
  

――代表以外のアスリートとしての活動は、どうされていますか

川畑 代表以外の活動は、火曜と木曜に「スキルアップし隊」と言うグループを作って昼の1時から3時まで練習をしています。同じく火曜と木曜の夜7時から10時までデフだけのチームで練習をしています。
アレグリーナというチームで、火曜、木曜、土曜に練習があって、その練習以外に健聴のリーグにも参加していて、今期は12チーム中8位という結果に終わったので、来期はもっと上にいけるように頑張りたいです。

「スキルアップし隊」は、もともと、W杯に向けて練習したいよねという、ブチ(岩渕)の案にみんなが賛同し、昨年の3月から火曜日と木曜日に参加できる選手が集まって練習を始めました。W杯が終わった今も続いています。

岩渕 3~4人ぐらい集まって講義がない大学生にも来てもらって一緒に練習しています。コートが取れなかったときはボルダリングとかトランポリンとかいろいろな動きをするという目的を持って遊びながら。

川畑 楽しみながらね。

岩渕 トレーニングなど色々としています。

川畑 なんか5月に…

岩渕 ああ、スパルタンレース?

川畑 うん、やろうかみたいな話も出てるよね。なんか千葉でやる大きなイベントがあって,10kmの中に25の障害物があってそれを乗り越えながらゴールを目指すというものなのですが、やらないかみたいな話が出てきてて。
(※編集注 Spartan Race Japan、新型コロナウィルス感染防止のため、5月千葉レースは7月に開催延期となり、デフフットサルメンバーの参加は見送られました。)

岩渕 障害物競走みたいな。想像が難しいけど…

川畑 優勝したらお金もらえるんだよね。

岩渕 8万円。

川畑 でも、参加するのに1人2万円払わなくてはならないので(笑)
楽しそうだからやってみようって感じだよね。

岩渕 私は代表のほかにフットサルチームに入っていて健聴のアーリーっていうチームに入っています。アーリーは東京の2部リーグですが、今期優勝して1部に昇格が決まって来期は1部で活動するフットサルチームです。

川畑 ブチは1部に上がって、私はまだ1番下のエントランスリーグなので、まずは2部に上がることを目標に頑張ります。

岩渕 フットサルは県リーグがあって東京都は1部、2部、エントランスリーグの3つに分かれていて。1部で勝ったら関東に入るために関東の最下位と入替戦をやって

川畑 1位は自動じゃなかった?2位が入れ替え戦だよね、たぶん。

岩渕 あっそうだった?やばい、やばい(笑) 関東の次が全国です。
アーリーは金曜日の夜と日曜日の午後練習をやっていて、スキルアップし隊が火曜日と木曜日の昼。アレグリーナにも助っ人として夜も行っています。火曜日に昼夜の2つ、木曜日も2つ、金曜日の夜と日曜日で、練習試合が土曜日に入ってる感じです。

――忙しいですね…

岩渕 月曜日をオフにして、水曜日にジムみたいな。ジムには、ほぼ毎日通っています。

――仕事の方は、実務はされていないのですか?

岩渕 やってないです。自分たちはケイアイスター不動産株式会社という会社で、障害者アスリートチームである、ケイアイチャレンジドアスリートチームに所属しています。

川畑 社内の研修で自分たちのことを話す時間を作ってもらったりとか、体験会を開いてろう者のことを知ってもらう活動をしています。今会社に、私たちろう2人、車いすバスケが3人(そのうち1人が掛け持ちで車いすバトミントンをやっている)の計5人のアスリートチームって言うのがあって、それで体験会とか講演の担当を変わりばんこで決めてやったりしています。

岩渕 それで、たまにお仕事みたいな感じのことや、それ以外でもトレーニングをみなし労働としてやらせてもらっています。先日、小学生120人ぐらいを相手に、体験会を開いたのですが、すごく大変で…。もうメンタルやられました。

 アーリーで毎週日曜日の練習の前に1時間半、小学生を相手にキッズスクールをやっているのですが、その子たちは(※編集注 フットサルがやりたくて集まった子たちなので)コーチの言うことをちゃんと聞くんです。だから小学生、大丈夫だろうと思っていたら、あちこちに行ってしまうし、待って!待って!聞いて!聞いて!みたいな、すごく大変でした、小学生…。

川畑 デフサル体験会じゃなくなったよね、ただの…。外でやるとどうしても声を出さないといけないし、誰も聞いてくれない・・・。

2人 難しいよね…。

岩渕 まぁ、そういう貴重な体験もさせていただいています。昨年は10回くらいだったかな、体験会、講演会含め。色々行かさせていただいています。

――アスリートとして食事で気をつけていることはありますか。

岩渕 細かくは気をつけてないっていうのが結論ですね。フットサルをやるにあたっては交通費などお金がかかるので、食事までお金を使うと暮らしていけなくなってしまうので、100%食事に気をつけることができないんです。私の場合は1日3食食べること、プロテインを飲む事。他に運動・練習前にBCAAって言うアミノ酸をとって、運動の後にプロテインを飲む。そうやってタンパク質を多めに取るようにしています。
あと、米もちゃんと食べるようにしています。エネルギーがなくなってしまうので。

川畑 私はサラダを多めに食べる事と、後はもう前々から本当は体重をもっと減らしたいんですが、なかなかうまくいかなくて。以前より30分ランを週に3回、月水金でやっていましたが、今は増やして毎日最低30分は走るようにしている位かな。
基本的にはそこまで食べる方じゃないんで、サラダを多めに食べて、後はしっかり走るようにしています。

――アスリート栄養士みたいな人がいたらいいなぁって言う希望はありませんか?

岩渕 ご飯を作って欲しいですねー。

川畑 食事を作るのが苦手なんですよ。だから、そういう専門の人が毎日のご飯を作ってくれたらなぁって思うときはありますね。

岩渕 食事が大事なのもわかるんですけど、献立を考えなきゃいけないとか、買い物に行かなきゃいけないとかなると、練習時間をとられてしまうのでなかなかバランスが取れないし難しいですね。

――お二人は自炊されているのですか?

川畑 月水金は自炊をするけど、火木は午後から夜まで練習に行っているので、どうしても外食になってしまうことが多いですね。

岩渕 火木は毎週AEONのフードコートで食べています。うどんとか消化に良いものを。あと練習が早めに終わったときは、タコ焼きが大好きなのでタコ焼きを食べたりとか。

川畑 ソースを多めでね。

岩渕 そう、ソース大好きなんで。

Pizza and salad dinner

――プレー中、仲間とのタイミングの合わせ方はどうしていますか。決め事とか。

川畑 チームの決め事?

――サインみたいな…

岩渕 サイン…。1、2…(1:右手の手のひらを前向きに上げ、2:横に降ろす)

川畑 それはキーパーでしょ。でもコーナーとか状況に合わせてやるから…サインなくなったもんね。

岩渕 この状況のときはこの選択をするという、選択の練習をみんなでやって、こういう状況のときはこうするんだっていう共有イメージをもっておく、みたいな感じですね。

岩渕 タイミングというのはどういう…?

――声かけとかが聞こえないから、どうやっているのかなぁっていう。

岩渕 いやぁ、どうしようもないです。難しいので、やはりボールが出たら時間が止まるので、走って近寄って手話やるとか。1番困るのが交代のときに、ビブスを脱ぐじゃないですか。脱いでぶんぶん回して味方に見えるようにするのですけど、全然気づかないことがあって。1分間位ブンブン回していて出る前に疲れてしまったこともありますね。
 タイミングはやはり難しいですね。合わせようと思って合わせられるものではないし。ずーっと見て、こっち向いたら声をかけるっていうか。

川畑 でもフットサルだからまだ良いのかもね。サッカーってなると…広いし。

岩渕 まぁね。ずっと手を振ってても疲れて手が下がってくるもんな。

2人 ある、ある。(笑)

――それは海外の選手も同じ状況?

岩渕 そうですね、同じ感じです。私たちにとってそれが当たり前なので特に感じる事は無いかな。

川畑 うん。ない。

――同じ、そこは五分五分なんですね。

岩渕 でも、健聴のチームに入っているので、声でわかるっていうのがうらやましいなとは思います。

川畑 前は健聴チームに入っていたので、健聴の人は後ろからの声を聞きながらプレイをするって言う話を、健聴チームにいたときに初めて知った。
前にいたチームの決め事っていうかルールがあって、必ず声出すこと。だから出してって言われたんですけど、逆に「聞いていいですか?声を出すって何を言ったらいいんですか。」って。

――そりゃそうですよね!

川畑 聞こえないから、実際、みんなが何かワーワー言っているのはわかるけど具体的に何を言っているのか分からないから聞いたら「なんでもいい」って言われて。なんでもいいって…えっ?って思ったけれど。それでも声を出さなきゃいけないから、まず自分が考えたのは、代表の方では聞こえないし伝わらないって思っても、自分は何かを常に言うタイプなので。健聴チームでもパスとかを失敗したら「ドンマイ」と言ったりとか「次に切り替えよう!」とか言ってたら、そういう言い方の発想なかったって言われて。

岩渕 あはは、逆に?

川畑 そう。健聴チームのほうは何かプレーに必要な指示だけを言っていたらしくて、そういうチームを良くするための、失敗しても「次!大丈夫!!」って言う声かけが全くなかったらしくて「それいいね!」って。
それは自分で考えて出したものだったので、逆に、えっ!言ってないの?とびっくりしました。でもそれがあったから、声を出す大切さっていうのはわかった。聾学校にいたから、声をかけあう大切さや必要性を感じなくて、自分が見えてれば大丈夫みたいな部分があったので。健聴とうまくコミュニケーション、プレーをしていくためにはやっぱりろうからも、できる範囲で声を出さないといけないのかなあって思いました。

岩渕 声はね、言われるよね。

川畑 「声だせ〜!」「えっ、何を?」みたいなね。最初の頃はね。

岩渕 自分は高校がソフトボールだったんですけど、結構厳しい高校で監督が「お前は受信(聞くこと)ができないけど、発信はできるだろう」って言われて「お前は何も聞こえなくても声出せ!みんな合わせてくれるからみんなを信じろ!」みたいなことを言われて。「オーライオーライ」とか、投球の指示とかも出せって言われて。

川畑 投球の指示って何を言うの?

岩渕 例えば私はショートをやらせてもらってたんですけど、セカンドにボールが飛んでいって、そのときにファーストに投げるのか、セカンドに投げるのかを「お前が指示しろ」って言われて。飛んだ時点で誰が取るのかもうわかるから「セカン!セカン!」「ファースト!ファースト!」とか。それでファーストに投げて、ランナーがセカンドからサードに行ってたら、それも指示しろって。

何でもいいからわかればいいみたいなこと言われて。それからもう言う癖をつけた。でも確かにソフトボールはわかるけど、フットサルはわからないので何を言ったらいいのかなぁってなりますよね。

自分も今はもう慣れていろいろなことを言いますけど、最初はマークしている相手の番号を伝達するために「6番見てるよー!」とかしか言ってませんでした。「誰かを見てるよ。」ということしか言えませんでした。

川畑 「見てるよー!」って言うんだ。

岩渕 そうそう。慣れてきたら「6番みてるよー!」「5番見てー!」とか「右行って!」とか。「しぼれ、しぼれ!」「戻れ、戻れ!」とかやってるね。
それでも指示が出せるようになるまでは、とにかく時間がかかるんです。社会人チームなんで、年上が多いんですよ。高校のときは礼儀とかが厳しかったので。もう全く心を開けなくて孤立して、周りの会話も全然わからないから会話に入れなくて。会話にも入らないぺーぺーの若い奴が何か指示を出したら、何だこいつって思われるかなと悩んでしまって、最初の3年間ぐらいは全然しゃべらなかったんです。でも今のチーム7年目なので、まぁ慣れてきて指示できるようになりました。時間かかりますね。難しい。

川畑 プライベートの話なんか全然しないもんね。

岩渕 知っているのは本名ぐらいだよね。どこに住んでいるのかも知らないし。

川畑 実際、試合に行くときって、数時間前とかに早めに行くんですけど、みんな試合で会ったことがある選手とか、多分以前、同じチームだった選手とかと話をしていて仲が良さそうなんですけど、私は全然知らないから話すこともないし、チームで集合した後って時間までは割と自由なんですが、ずっと携帯いじっていました。

岩渕 だからね、大人しい性格だと思われているよね。みんなにね。

川畑 うん。

岩渕 だってたぶん寡黙キャラって言われているんですよ。アーリーで。でも私、めっちゃお喋りじゃないですか。みんな知らない。

――本当の自分を出せていないっていう状態になりますか?

川畑 わからないから…。

岩渕 最近考えるのは、どっちも本当の自分だと思っていて。健聴者といるときはこれが自分で、ろうといるときはこれが自分なんだ。だからどっちも自分に素直に場に応じて過ごしているので、別に嘘をついてるとか演技しているわけではないので、どっちも本当の自分だからこのままでいいか〜って思うようになりました。
嫌われているわけではないんで。

川畑 そうだよね。

岩渕 話そうと思ったら話せるし、ただ疲れるから。まぁこのままでいいかみたいな。そう思い始めたら楽になって、そこから逆に楽に喋れるようになりました。


第3弾につづく。

取材:那須かおり
撮影:加藤雄三
文 :津金愛佳
トップ写真:選手提供

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