自分を知って~苦しい壁を乗り越えた先に見えたもの~

Photo of Momo-chan who is worried

 

私が、初めて聴者ばかりの世界に踏み込んだのは高校生の時でした。
それまでは、ろう学校育ちでした。

ろう学校に通っていた時は、
聞こえない自分について悩んだり、壁にぶつかったことは、一度もありませんでした。
悩み一つなく、幸せな環境で楽しく生活していました。

そんな私が初めて人間関係に悩み、壁にぶつかったのが、聴者ばかりの世界に踏み込んだ、高校生の時だったのです。
今、改めて考えてみると、その世界を高校の時に体験できてよかったと思っています。

アイデンティティがまだ定まっていない小学生や、経験が浅い中学生の時に聴者の世界へ踏み出していたら、周りと自分を比べては落ち込み、
劣等感を抱き、今のような輝いた人生とは無縁で、暗い人生を歩いていたと思います。

自分自身と向き合える年齢になってから、壁にぶつかってよかったと思います。
でも、人生初の壁にぶつかった時は、とても苦しかったです。

ろう学校の高等部へ進学した同級生は、悩みなく学校生活を楽しんでいるのに、
私は人間関係の壁にぶつかってしまいました。

普通高校では、友達同士もうグループが完成していたのです。
そのグループに入っていくのも難しく、同級生に聞こえない自分を理解してもらうのも簡単ではありませんでした。

「この進路を選択して良かったのだろうか」と当時はよく思っていました。
「もし、友達と同じろう学校を選択していたら、楽しい高校生活送れたのかなあ…」と
後悔して泣いてしまう時もありました。

息抜きにろう学校時代の友達と会って遊んでも、ろう学校での楽しい生活を聞かされる時は地獄でした。「ああ、やっぱり私の選択は間違っていたのかなあ」と思ってしまう自分も嫌で、ろう学校の友達と会うのが嫌になった時期もありました。

でも今振り返ってみると、早いうちに壁にぶつかって良かった。
高校からインテグレーションした進路選択は間違っていなかったと思います。

なぜなら、社会に出ると、学校生活とは全く違う生活になり、ついていくのも大変な毎日だからです。

仕事を覚えることも多い中、周りは聴者ばかりの世界です。
自分から仕事を覚えるためには、聴者に
聞こえない自分について理解してもらうことが大事だと思います。

聞こえないことを理解してもらえるように説明しないと自分が損をする。
自分のことを理解してもらうためには、どうしたらいいか?と意識したきっかけが、まさに高校の時だったのです。

学校では、担任の先生がマスクを外さず朝礼を進めることがよくありました。
私たちろう者は、口形をヒントに相手が話していることを想像することがよくあります。
マスクされると非常に困るのです。

また、バイト先では、周りに私の耳が聞こえないことを理解してもらわないとダメだ…と強く思いました。

私は「聞こえないことの限界」を周りに説明することなくバイトを
スタートしてしまいました。後になって「きちんと説明していれば、きっと自分が楽になっていた…」
と後悔したのです。

私が高校生の時にしていたバイトはマクドナルドです。
マクドナルドで、厨房担当をしていました。

周りがうるさいと説明や注意を受けても、何を言われているのかが分からないし、
「もう一度言ってもらえますか?」という勇気も私にはありませんでした。

きちんと「聞こえないことの限界」を説明していたら、分かるまで教えてもらえたかもしれない。」
と後悔しながら、周りのやり方を見ながら真似したりしていました。

でも、幸運だったことが一つだけありました。

私には、高校の時、私が聞こえないことを知って「手話教えて!」とわざわざ
隣のクラスから来てくれた友達が二人います。

その二人に誘われて入ったバイト先だったので、シフトが被ったら
彼女たちに通訳してもらったり、分からないことがあったら聞いたりして
助けてもらっていました。

あの時、二人がいなかったら、と思うと今でもゾッとします。

このような、高校やバイト先での経験から、
自分が聞こえないことを周りに説明して、理解してもらわないと自分が困るのだ、ということを学びました。

また、社会に出た時にも、同じことを思いました。
周りに耳が聞こえないこと説明しないと自分が困る。仕事ができない人と思われたくない。
そう思った私は社会に出た時、初めての上司や先輩にすぐにこんなお願いをしました。

 

Photo of written conversation

 

「お忙しいと思いますが、筆談で仕事を教えていただけませんか。
聞き漏れや聞き間違いによるミスを少しでも減らしたいです。
分からない仕事があったら放置せず、すぐに質問するようにするので、
早く仕事を覚えるためにも手伝っていただけますでしょうか」

その上司には「そうだね、聞こえない人と仕事するのは初めてだから色々困ったら
相談して欲しい。出来る限りは対応したいと思っているよ。」
と嬉しい言葉をいただきました。

私は、上司と話をするときに、彼の口形を見て話している内容を想像しながら
会話していました。でも、そのことは上司には伝えていませんでした。

部署会議の時にも、私はいつも上司の口ばかり見ていました。
すると、上司が「口を見ることで話していることを想像しているの?」
と聞かれたことがありました。

そこに気づいてくれた上司にも驚きましたし、常に気にしてもらえていたことが嬉しかったです。

それからは、上司はマスクしたまま話すと私が困ると気づいてくれたようです。

他の部署から書類を持ってやってきた人が、私にマスクしたまま話しかけた
時には、上司はすぐ「書きなさい」と注意してくれるようになりました。

先輩も私のお願いに賛同してくれ、全て筆談で仕事を教えてくれました。
筆談用のボードも購入していただきました。
頂いたボードは今も大切に使っています。

私が参加する会議の時には、どうしたら会議がわかるだろうかと部長が悩んでいたようです。私は、部長が考えてくれていたことは知りませんでした。

部長が「これはどう?」と勧めてくれたのは、
話す人が小さなマイクを持って話すと、私のところには音が大きく聞こえるスピーカーです。

たまに聞き取りにくいこともありますが、すごくいいので助かっています。

何よりも、聞こえない私が参加する会議について、どうしたらいいかと考えてくれていたことが、とても嬉しかったです。私はかなり恵まれていると思います。

上司や先輩に聞こえないと言うことを理解してもらえたことにより、ストレスもなく楽しく仕事が出来ていて幸せです。

まず、私たちがやらなければならないことは、自分のことについて理解すること。
なぜなら、自分のことについて理解した上で、自分のことを相手に説明しないと伝わらないからです。

私はろう学校の高等部へ進学していたら、自分の限界を知る事なく社会に出ることになっていました。社会に出てから壁にぶつかっていたと思います。

ろう学校の高等部へ進学した友達が「俺も挑戦すれば良かった。」と言っていました。

もし、他人に理解してもらえなかったらどうしよう?
筆談をお願いしても嫌がられたらどうしよう?
不安を抱えて社会に出ている人、
抱えたまま社会に出たことがある人はたくさんいると思います。

私たちには、筆談をしてもらう権利があります。

私は、聞き取れなかったらどうしようと悩むのも疲れるし、神経使うのも嫌なので
ファッション店などで店員さんと会話する時は最初から筆談をします。

筆談でも会話が盛り上がると楽しいですし、
顔を覚えてくれ、次に行った時には、すぐメモやスマホを持ってきて
「話そう!」って言ってもらえるようになりました。

店員さんと意気投合して、連絡先を交換して、お店にいる日を聞いて、
その日に合わせてお店へ行くこともあります。
無理して人間関係に悩むよりも自分が楽な方法で会話した方がいいと思います。

でも、高校生の時には筆談を嫌がられたこともありました。
そういう人とは、無理して一緒にいる必要はないと思いました。

私たち聞こえない者は人間関係で悩む道を避けては通れないのです。
私は人に頼ることは恥ずかしい事だとは思いません。

頼ってください!手を差し伸ばしてくれる人は必ずどこかにいます!
今は苦しくても、それを乗り越える。すると後に苦しかった時間が宝物になります。

  

著者:もも

きこえる家族の中で育つ。
嵐とSnowMan、ディズニーが好き。(Dヲタ)
中等部までろう学校。県立高校の普通科にインテ。
高校卒業後、障害者職業能力開発校を経て
障害者雇用にて事務職として就職。