湘南茅ヶ崎の海を漕ぐ~デフSUPを通してみた手話通訳
ヨネケンさんインタビュー(2)
前回は、ヨネケンさんのSUPとの出会い、茅ヶ崎から全国へろう者のSUPプレイヤーが広がったこと、SUPならではのトレーニング方法などを教えていただきました。ヨネケンさんにとって手話が一番深く理解できる母語。自然を相手にするマリンスポーツだからこそ、命にかかわる情報に手話通訳の必要性を訴えます。
前回は以下から読むことができます。
ヨネケンさんインタビュー(1)↗
――SUPの大会では手話通訳はいますか?
米島 茅ヶ崎のマイナビの大会だけは手話通訳を主催者が準備してくれます。他はどこも手話通訳はありません。いつも「手話通訳希望」と申し込むのですが、筆談対応だけになります。手話通訳の派遣制度がわからないとか、方法がわからないと言われることが多いです。
仕方がないのでほとんど筆談だけですが、限界があります。茅ヶ崎のマイナビの大会だけが開会式から閉会式まで手話通訳がいます。本当にありがたいです。
砂浜のほうに立って通訳してくれて、スタートしてからは別。試合中には通訳はないけれど、待機中にはしてくれます。ルールの説明も通訳が付きます。
――ルールって毎回変わるんですか?
米島 はい。例えば風が突然強くなった時に予定のコースが変更になるときなどの放送や、連絡事項も通訳してもらえます。
――それは、命に関わることですから大切ですよね。
米島 そう。本当に必要です。
SUPを初めて7年だけど2年目くらいの時に地域の大会で全日本SUP大会の出場切符を獲得して全日本SUP大会へ出場した。
スタートのピストルの合図を出す位置が選手が並んでいる後ろだった。みんな聞こえるから前を向いたまま音だけでスタートできるが、私は聞こえないので後ろを向いて確認しなくてはならない。そうなるとスタートが遅れるので前で合図してほしいと要望した。
それを聞いてくれて日本だけはピストルの合図を前を向いたまま目で確認し、一斉に綺麗にスタートできるようになった。日本だけ。本当にありがたい。
――海外での大会ではスタートの合図は後ろなんですか?
米島 そうそう。砂浜で合図するから後ろを見ているとどうしても出遅れてしまう。日本だけは前でやってくれる。
――後ろを見ながらだと前を向いてスタートする時に遅れるんですね。
米島 聴者だとカウントダウン5・4・3・2・1でスタートすることができるけれど、聴こえないとどうしても1秒くらい差ができてしまう。先にスタートされてしまうと、後ろに着くことになるので抜かせない。平等にスタートできれば、走るのは早いので前に出ることができる。
―― 後ろからだと前が詰まっていて出られないんですね。
米島 そう。スタートは大切。
――SUPのルールを知らないんですけど、最初にスタートして走って海に出てボードに乗るの?ボードに乗って漕いで回って浜に着いて走ってゴール?
米島 ボードをリーシュコードで足首につないでいるんだ。リーシュコードを外してボードを置いたまま走ってゴールする。ボードはスタッフに任せる。
――投げ捨てて走るみたいな感じですね。
米島 後ろが迫ってきていたら、そろそろ足がつくなくらいのところで降りて走る。
――全国各地の大会で手話通訳は本当に欲しいですよね。
米島 本当に欲しい。
――お金よりも手話通訳。
米島 ルールとコースをしっかりと知りたい。手話通訳が欲しいなと思う。
――各地域でボランティアなどはいないの?
米島 ほとんどいない。どこも筆談対応が多い。
前に、手話は出来ないけれど指文字ならできる人がいますと言われて…指文字じゃ無理って言ったんだけど、当日行ってみたら指文字だけができる人が来ていて…
指文字のみで通訳してくれた。案の定、通じないしわからない諦めた。理解ができない。
――全部指文字じゃあ理解できないですよね。手話とは違うってことがわからないんでしょうね。
米島 そう。
――もっとそういうところを知ってもらわないとならないですよね。
米島 みんなと同じようにスタートして回ってくればいいだろって思われている。なんか寂しいよね。ルールやコース、他にもいろいろと通訳が必要だと知ってもらわないとなりませんね。
――SUPを知らない人って多いと思うんです。実際、私も茅ヶ崎に引っ越してきて初めて知ったんです。もしSUPをやってみたいって思った時は、どこから始めるのがいいのですか?
米島 まずはボードで遊ぶくらいの気持ちで試してみるのがいいと思います。落ちても構わないっていう気持ちで繰り返せば、自然と出来るようになります。いろんなところで体験をさせてくれるところがあるので申し込んでみるといいと思います。
――体験では通訳派遣なんか使えないですよね。なかなか一歩が踏み出せなかったりしますね。(※インタビュアーは補聴器活用をしているので、補聴器を外す海が少し不安。)
米島 ろうの経験者に体験をお願いすることもできますよ!
――それは素敵ですね!憧れの先輩とかロールモデルとしているような人っていますか?
米島 SUPでは憧れている人がいます。
日本代表ので国際ランク5位か6位の人に憧れてます。年下だけど、あんな風になりたなぁっていう気持ちはあります。葉山に住んでいる人です。金子ケニー選手です。
金子ケニー選手のレッスンに参加して、直接指導を受けながら練習しました。とても楽しかったです。
――へぇ!一緒に練習もしたのですね。ヨネケンさんの子供の時ってどうでしたか?
米島 ろう学校に通っていました。学校から帰ると自宅の近くで遊んでいました。
その頃は箱型の補聴器を使っていました。その補聴器が珍しかったのか、周りに近所の子どもたちが集まってきて「何それ。マイク?貸して貸して」と言われて悔しくて泣いたこともありました。
――その時はどうしたんですか?
米島 補聴器を外して置いてから(壊れたらいけないので)、一人一人にケンカを挑みに行きました。負けないでケンカしたりして、いつの間にかみんな友達になっていました。
――ケンカがきっかけで仲良くなったんですか?
米島 そうそう。その中の一人が恥ずかしそうにお母さんに連れられて謝りに来ました。その家には子どもが2人いたんだけど。私が聞こえないということを知って、子どもたちに謝らせて、それから一緒に遊ぶようになった。
その子たちが周りの子にも声をかけてくれて、聞こえなくても関係ないって一緒に遊ぶようになりました。
――子どもたちに1番伝えたいことって何ですか?
米島 ろうの子どもたちの場合、手話でいろいろ話したい。
SUPでもいいし、何をやりたいか聞いて、それを優先して集中してやってほしい。
聞こえる子と違ってろうの子は遠慮しちゃってる子が多いんですね。言いたいことを言えずに我慢している子が多い。失敗してもいいからやってみなくちゃわからない。積極的にやってみて欲しいと思います。
――やってみたいと思うことをやる、と言う事ですね。私もそう思います。つい遠慮してしまう…
米島 私もそうでした。少年野球をやってみたかったんだけど、聞こえないからと遠慮しました。さっき話した喧嘩してから仲良くなった友達が野球をやっていたんです。小6の終わる前くらいに友達になった。その時に来いよって誘われたんだけど、遅い。後悔した。小2、3くらいで入っていれば上達したかもしれない。そんなふうにならないようにやりたいと思ったことは積極的にやってみて欲しいと思う。
――やりたいと思ったらすぐに始めるのがいいってことですね。
米島 そうです。
――大切なことですね!ご家族は皆さん、SUPをされたりするのですか?
米島 経験はしました。楽しいって言っていましたが、本格的にはやらないですね。遊ぶのはOKって言っていますけど。
――お子さんがお二人、それぞれ健聴と難聴でしたね。コミュニケーションで困ることってありますか。
米島 コミュニケーションは家庭内では手話がメインです。子供が小さいときには言いたいことが伝わらないと言うこともありました。わからないときにはわかるまで聞くようにしていました。伝わった時はとても嬉しかったです。
一番大切なのは通じることだと思います。不満があってもそのまま放っておくのは良くないと思う。
きちんとお互いにわかり合えるまでコミュニケーションとることが大切です。
――SUPを一緒にやると、コミュニケーションがスムーズというか、一緒に海にいるだけで心が通じるみたいなことあります?
米島 あるある!海で遊ぶと絶対、通じると思う。
――そうですよね!今日は、素敵なお話が聴けました。ありがとうございました。
取材を終えて
お話の最初から最後まで、本当にSUPが好き!ということがビンビン伝わってきました。取材を終えたら、そのままボードを抱えて海に駆けて行ってしまいました(笑)
自然を相手にする以上、大会などでの情報保障は命にかかわることもあるので、必要だと思います。また、後方でスタートの合図をすると聴こえないので聴者と比べるとどうしても不利になってしまいます。ヨネケンさんの要望で、日本では前で合図するようになったお話も素敵だと思いました。
2020年8月の今夏、国際サーフィン連盟がSUPのオリンピックレベル統括組織に選出。オリンピック競技になる可能性が前進したと言われています。パラリンピックやデフリンピックでも競技種目になる可能性ももしかしたらあるかもしれません。
サーフィンにはデフのプロがいらっしゃると聞いていますが、いつかはデフSUPプロが出てきて欲しいと思います!
取材:那須かおり
撮影:津金愛佳
湘南の海を漕ぐ!湘南で活動するデフSUPの方にインタビュー!(聴覚障害にまつわる経験談)