看護師からみた手話~医療現場での情報保障~

私が手話を始めたきっかけ (1)

Photo during medical treatment

 

 私は看護師をしています。初めて耳の聞こえない人と出会ったのは15年程前のこと。治療の為に入院されたご高齢の男性患者様は、3歳の時に麻疹にかかり聴力を失ったと言っていました。耳の聞こえない人と接した事がなく、全く手話が分からない私はその患者様とどうコミュニケーションをとったらよいのか、どのように接したらよいのか分からず、とても戸惑っていました。伝えたい事が伝わるのだろうか、相手の訴えを理解することができるのだろうかと不安と自信の無さから、その患者様のところに行くことに少し苦痛を感じていました。何となく伺うことを躊躇してしまっている自分がいました。患者様は手話を教える仕事をしているんだと、笑顔で伝えてくれたことを今でも覚えています。

 その頃から手話ができたらいいなと心のどこかで思いつつも仕事や育児、家事に追われる毎日で気持ちだけがただ片隅にある状態でした。

 4年前、何気なく見ていた広報誌に手話講習会受講者募集案内が掲載されているのを見つけてすぐに申し込み、そこから手話を学び始めました。講習会では手話だけでなく聴覚障害者の社会背景や歴史、福祉、制度、法律など様々な事を学びました。今まで知らなかったたくさんのことを知り、聴覚障害に対しての気づきや驚き、感動など、毎回受講を重ねる度に手話の魅力にはまっていきました。

 そして2年前に、地域の手話サークルに入会し、聴覚障害者と交流する機会が増えました。いろんなイベントにも参加しました。日帰りバス旅行や講演会、夏は聴覚障害の子供達と野外合宿に行き、冬はスキー合宿にも行きました。私はうまく手話表現ができないし、手話の読み取りも難しいので何度も何度も聞き返しては、身振り手振りで伝えました。子供達はとても明るく、人懐っこくて気軽に声をかけてくれ、合宿中とても楽しそうに過ごしていました。

 聴覚障害者は、とても表情が豊かでおしゃべりです。聴覚障害者はただ耳が聴こえない、または聴こえにくいだけであり、他は健聴者と同じなのだと気づきました。

 そして、手話を勉強してから医療現場での聴覚障害者に対する対応に疑問を持つようになりました。健聴の患者様には常日頃から様々な指導や教育、詳しい説明がされます。また、抱いている不安や思いを傾聴し対応しています。

 しかし、聴覚障害者が入院される場合はたいてい入院日と退院日の2日間だけ手話通訳による入院中の説明や検査・治療の説明、結果説明等を通訳してもらい患者様に伝えているのです。入院中、頻繁に手話通訳は来られません。聴覚障害の患者様に詳しい説明をするには、手話通訳を通して行われるため、健聴者と比べると非常に時間が限られています。そして一度に多くの事をまとめて伝えるようになります。

 聴覚障害のある患者様も、健聴者と同じように情報提供されるべきであるのに、手話が世間一般に十分普及されていないため、健聴者と同等な医療提供がされていないのです。 病院に手話通訳が常勤していれば、いつでも必要な時に情報提供・医療提供ができるのにと、もどかしい気持ちでいます。

 私は今も手話の勉強を続けています。手話通訳者の資格を取得することを目標にしています。手話通訳者の資格があれば、聴覚障害の患者様にいつでも必要な時に情報提供ができます。聴覚障害者も健聴者と同等に情報が保障される、これは当たり前のこと。聴覚障害者が安心して医療を受けられるサポートをしていきたいです。これからも聴覚障害者と交流を重ねていき、いつかは目標を達成したいです。

 「聞こえない・聞こえにくい」とはどういう障害なのか、情報保障が重要であり大切なこと。「手話」について一人でも多くの人が理解し、手話をもっと身近に感じていただけたら嬉しいです。

みなさんも手話で伝え合う楽しさを、ぜひ一度体験してみてください。きっと新たな発見に出会えると思います。誰もが安心して暮らすことができる社会をみんなで作っていけたらいいなと思います。

※手話通訳者の派遣状況は市区町村により異なります。
まだ数は少ないですが、日本国内にも手話通訳者の設置されている病院もあります。

(参考)
聴覚障害者の医療に関心をもつ医療関係者のネットワーク
(聴障・医ネット、手話通訳者設置医療機関)
http://deaf-med-net.news.coocan.jp/iryoukikann.html