人工内耳の破損リスクは身近な日常生活の中にも潜んでいる!?

Helmet photo

 

 僕の右耳には物心がつく前から人工内耳が入っています。家族の中では、僕と弟の2人が人工内耳を入れています。
 ろう学校の小学部では体育の授業でサッカーなどの球技をする時に、補聴器の子は赤白帽子で人工内耳の子はヘルメットを装着することになっていました。
両親からも、人工内耳や補聴器は高いし大事な物だから壊さないようにと何度も言い聞かされていました。

 僕が小学5年の終わリ頃のことです。自宅でいつものように2歳下の弟と戦隊ヒーローごっこをして遊んでいました。もちろん、遊んでいる途中で補聴器や人工内耳を落として踏んづけてしまったりするといけないので耳から外して大事に置いてから遊びます。
 弟も僕も負けたくないので戦いは、徐々に白熱しエスカレートしていきました。僕が横になったその瞬間、弟のかかとが僕の右耳のあたりに直撃しました。

 「痛っ!!!」

僕は叫んでとっさに頭を抱え込みました。
ものすごく痛かったけれど、その痛みよりも先に「まさか壊れてないよね?」という不安が募りました。

 

 恐る恐る人工内耳を装着してみると…僕の不安は的中し、聞こえなくなっていました。
母に告げると、母もとても驚いて慌てていました。電池を交換してみたり、送信コイルを交換してみたりとあらゆる方法を試してみましたが、やはり聞こえません。僕は頭の痛みよりも、音が聞こえないことへの不安や壊れてしまったことがショックで号泣しました。母も一緒に泣いていたのを覚えています。

 急いで主治医に連絡をし、病院に駆け込み診てもらうと、蝸牛の中に埋め込まれている電気信号を伝える受信コイル部分が壊れていると診断されました。この部分が壊れてしまうということは、中に埋め込まれているインプラントの交換をするために再手術をしなくてはなりません。6年生に進級した始業式の日に再手術を受け1週間ほど入院しました。
 インプラント交換の手術を受け人工内耳を装着し音を取り戻した時、ホッとしたことは今でも忘れられません。

 

Kouchan brothers photos

 

 僕の再手術から2年ほど経ったある日のことです。家族で外食をしようとおしゃべりをしながら歩いていました。
 聴覚障害者は人工内耳をしていてもクリアに聞こえる訳ではないので、口元や手話を見ながら会話をします。会話をしながら歩くということは顔を横に向けて歩くということです。

 突然、弟が視界から消えました。

横を向いて歩いていたために、電柱に頭を強打して立ち止まっていたのです。人工内耳の入っている方を強打したので心配になりました。聞こえるかどうか確認すると、聞こえない。急いで自宅に引き返し、電池交換などしてみましたがやはりだめ…

 僕の時と同じように、中に入れているインプラントが壊れてしまった為、再手術となりました。2回目だったせいか、母の対応はとても落ち着いていました。

 僕の周りでは人工内耳を入れている友達は多かったけれど、再手術をしたという話は聞いたことがありません。まさか、兄弟そろって再手術になるなんて、保険には入っていたはずですが、両親に大変な想いをさせてしまいました。

 

 このように、球技や運動などをする時だけでなく、遊んでいるなど身近な日常生活の中で壊れることもあります。普段から、頭を守るように注意することが大切だと、僕は身をもって知ることができました。

 

  

著者:こうちゃん

物心つく以前から右耳に人工内耳。
左耳はスケールアウト補聴器装用なし。
乳幼児から高等部までろう学校に通う。
自身の体験やエピソードなどを執筆。