小宮山日記(6)
2025年夏からアメリカ・ワシントンにあるギャローデット大学(Gallaudet University)へ、社会人として留学している小宮山さん。 世界でも数少ない“聴覚障害者のための大学”で学ぶその挑戦を、コラムとして届けていきます。 日本とは異なる文化や環境の中で、小宮山さんが何を感じ、どんな視点を持つのか。等身大の言葉で綴られるリアルな声を、どうぞお楽しみに。

8月下旬から授業が始まり、もう1ヶ月が経った。
入学にあたり”基本的なアメリカ手話や英語は使える”という前提があるとはいえ、先生やクラスメートは容赦なくネイティブレベルで授業を進めていく。そのため、毎日の宿題はもちろん、予習や復習を欠かさないようにしないとすぐに遅れてしまう。勉強は大変だが、週末には友達と美術館やカフェ巡りをして、ワシントンDCの街を楽しむようにしている。電車もバスも使いやすく便利である。
今回は、自分が一般企業で約5年働いた後、再び聴覚障害者の就労支援について学びたいと思うようになったきっかけについて書きたい。
近年、日本では障害者雇用促進法の改正により、企業は社員全体の0.3%を障害のある社員として雇用する義務が課せられるようになった。そのため、以前よりは障害者が就職しやすい環境になりつつある。しかし実際に働き始めてからの課題は、周囲の社員とのコミュニケーションにある。
例えば、私自身は耳が聞こえないため、会議では文字起こしアプリを利用し、日常業務ではメールやTeamsでやり取りをしている。特に複数人での打ち合わせではアプリが有効であり、1対1ではメールやTeamsの方が確実に伝わりやすい。つまり状況に応じたサポートの使い分けが必要になる。そのためには、自分自身でどの場面で、どんなサポートが必要なのかを言葉で説明できなければならない。
しかし、全ての聴覚障害者がそれをできているかというと、そうではない。理由の一つとして、自分の聞こえない状況を正しく理解できておらず、うまく説明できないこと。もう一つは、聞こえないことをマイナスにとらえ、なかなか自己開示できないこと。こうした背景から、私は「聴覚障害者自身が自分の聞こえの状態を理解し、自分の言葉で説明できるスキルを身につけること」が重要だと考えるようになった。
そこでアメリカで学びたいと思った理由は2つ。
1つ目は、ADA法(Americans with Disabilities Act)の存在。これは障害のある人のための法律で、必要に応じて情報保障を依頼したり、アクセスが制限されている場合には訴えたりすることができる。法律によってどこまで権利が保障されているのかを知りたいと思った。
2つ目は、世界中の聴覚障害学生が集まるギャローデット大学の存在。各国のろう教育、ろう学校、ろう文化、ろうアイデンティティがどう違うのかを学べる環境に大きな魅力を感じた。
現在は3つの授業を取っている。内容は「ろう者学」「コミュニケーション・アクセシビリティ」「公共健康学」。次回は、それぞれの講義について、より詳しく紹介していきたい。


