小宮山日記(4)
2025年夏からアメリカ・ワシントンにあるギャローデット大学(Gallaudet University)へ、社会人として留学している小宮山さん。 世界でも数少ない“聴覚障害者のための大学”で学ぶその挑戦を、コラムとして届けていきます。 日本とは異なる文化や環境の中で、小宮山さんが何を感じ、どんな視点を持つのか。等身大の言葉で綴られるリアルな声を、どうぞお楽しみに。

出発日まで残り2週間。
楽しみな気持ちもある一方で、自分の英語力やASLで本当にコミュニケーションが取れるのかという不安も正直ある。それでも、ここまでの準備は決して無駄じゃなかったと思っている。友人によるオンラインでの英語レッスン、添削アプリを使ったライティング練習、そしてろう教育やろう文化に関する英語論文でのリーディング練習。できることを積み重ねてきたので、あとは現地での出会いや学びを最後まで楽しみたい。
さて、前回は聴覚障害者向けの就労移行支援事業所で実習した際の体験について書いたが、今回はその実習をきっかけに始めたアルバイトについて振り返りたい。
実習が終わる頃、所長に呼ばれて「人手が足りていないから、大学卒業までの間にアルバイトしないか」と声をかけて頂いた。まだ学び足りないと感じていた私は、「ぜひやらせてください」と即答した。アルバイトとして担当した業務は、実習の時とほとんど変わらなかったが、同時にカフェでのアルバイトや講義、卒業論文の執筆も重なり、目が回るような忙しい毎日だった。それでも、その経験を通して”今やるべきことは何か” ”いつまでに何を終えるべきか” ”今できていないことは何か”など、頭の中をうまく整理できるようになったと思う。
中でも印象に残っているのは、自分より年上の利用者Aさんのエントリーシート添削や面接練習を担当した時のこと。Aさんは以前、地方の工場で働いていたが、「本当にやりたいことを実現したい」と退職し、東京に出てきた方だった。都内の大手企業への就職を目指しており、企業研究やエントリーシートの作成など、非常に意欲的な姿勢が印象的であった。
一方で、Aさんはこれまでほとんど聞こえない方としか関わった経験がなかったこともあり、突然話題が変わったり、ストレートすぎる表現をされたりと、少し戸惑うこともあった。自分自身は当時、まだ学生で社会経験もほとんどなく、しかもAさんより年下…。どうやってその違和感を伝えたらいいのか分からず、もどかしさを感じた。結局、その場では先輩スタッフに相談し、Aさんには先輩を通して伝えてもらった。
でもその経験をきっかけに”将来本当に就労支援の現場で働くなら、自分自身にももっと社会経験が必要なのでは”と考えるようになった。利用者の気持ちや背景に寄り添った共感的な支援をするには、私自身がまず社会人としての視点を持つことが大切だと感じたからだ。
それが、一般企業への就職を決めた一番の理由。あれから5年。あのときは、まさかこんなに長く働くとは思っていなかった。不思議。
次回は、一般企業で働き始めてからの経験について書きます📝


